前夜

「なんだか今度のやつはヤバいらしい」

 

テレビもラジオも新聞もネットもSNSも誰しもが皆口々にそう唱える。

 

街から水やパン、カップ麺、電池、ガスボンベが姿を消し

ガソリンスタンドにはたくさんの車が列を成し

僕たちは後を追う様にその流れに続いた。

 

異様な空気に飲み込まれ、異を唱える者もなく

不思議な緊張感に染まった空は黒一色で

星も月も死んでしまった。

 

平成が終わり、令和が始まり

増税やなんやと重苦しい閉塞感が蔓延する

この日本という街に近づいてきているそれは

一思いに握り潰す様な恐ろしさを

世界が終わってしまう様な非現実を

僕たちに見せつけようとしている。

 

なぜだか、少し胸がザワザワしている。

12月31日の23:59のあの空気に似ているからだ。

何かが変わってしまうのではないかという不安と

何かが変わってくれるのではないかという期待

アンビバレンスな感情を共有することなんてそうそうないのだ。

 

妙な一体感の行く末に思いを馳せる。

僕を心配するあの人がいて

あの子を心配する僕がいて

僕ではない誰かを心配するあの子がいる

 

こんな時だってすれ違うんだから

やっぱり終わってしまえばいいのに、と少しばかり思ったりもする。

 

窓の外の非日常と、窓の中の日常のコントラストに

少しの違和感とワクワクと息苦しさを感じている。